九州場所の千秋楽、優勝争いの真っ只中に飛び込んできた「横綱・大の里休場」のニュースに、驚きとショックを隠せなかった方も多いのではないでしょうか。
ここまで順風満帆にキャリアを重ね、年間最多勝も確定させていた若き横綱に、まさかこれほどの落とし穴が待っていたとは思いもしませんでした。
特に心配なのが、今回発表された「左肩鎖関節脱臼」という診断名です。これは力士にとって、ただの怪我以上に深刻な意味を持つ可能性があります。
この記事では、大の里関の休場に至った経緯から、怪我の深刻度、そして気になる復帰時期について、発表された情報を元に深く掘り下げて解説します。
この記事でわかること
- 大の里が九州場所千秋楽に休場した本当の理由と経緯
- 診断名「左肩鎖関節脱臼」が力士生命に及ぼす危険性
- 過去の事例から見る、復帰への道のりと引退リスク
- 師匠・二所ノ関親方の経験から予測される今後の調整方針
大の里が九州場所を休場した本当の理由と経緯
優勝の行方が決まる運命の千秋楽。ファンの期待が最高潮に達していたその日の昼頃、衝撃的なニュースが駆け巡りました。
東横綱・大の里、西横綱・豊昇龍、東関脇・安青錦の3人が3敗で並び、誰が賜杯を手にしてもおかしくない大混戦。その中心にいた大の里関の休場は、まさに青天の霹靂でした。
ここではまず、なぜ彼がこのタイミングで休場を決断せざるを得なかったのか、その経緯を整理します。
13日目の安青錦戦で発生したアクシデント
報道によると、事の発端は13日目の取組にありました。現在、破竹の勢いで番付を駆け上がっている東関脇・安青錦との一番です。この取組の中で、大の里関は左肩を痛めたとされています。
激しい攻防の中での負傷だったのでしょう。しかし、翌14日目の土俵には上がりました。
優勝争いのトップに立っている責任感、そして横綱としてのプライドが彼を突き動かしたのかもしれません。ですが、その代償はあまりにも大きなものでした。
14日目の東大関・琴櫻戦での相撲内容は、明らかに万全の状態とは程遠いものだったのです。
翌日の琴櫻戦で見せた異変と限界
14日目の琴櫻戦をご覧になった方は、違和感を覚えたのではないでしょうか。
普段の大の里関なら、得意の右を差し、左のおっつけで一気に相手を土俵際まで追い込む馬力があります。しかし、この日は違いました。
右は差せたものの、生命線である左からの圧力が全くかかっていなかったのです。相手の琴櫻関も、先場所痛めた右膝が万全ではない状態でした。本来であれば大の里関が有利に運べるはずの展開で、圧力をかけられずに完敗を喫してしまった事実。
これは単なる不調ではなく、左腕が「使えない」状態にあったことを如実に物語っています。
この敗戦を受け、師匠である二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)とも話し合った末、これ以上の強行出場は危険だと判断し、千秋楽の休場という苦渋の決断に至ったようです。
日本相撲協会に提出された診断書の内容
休場に伴い、日本相撲協会に提出された診断書には「左肩鎖関節脱臼で1カ月間の安静加療が必要」と記されていました。「脱臼」という言葉の響きだけでも不安になりますが、「1ヶ月の安静」というのはアスリートにとって非常に重い期間です。
これは単に痛みが引くのを待つ期間ではなく、損傷した関節組織を修復させるための絶対的な安静期間を意味します。優勝目前でのリタイアは本人にとって断腸の思いだったでしょう。
しかし、この診断結果を見る限り、土俵に上がり続けることは物理的に不可能だったと言わざるを得ません。
今回の怪我が力士生命に与える深刻な影響とは
「怪我も実力のうち」とはよく言われますが、今回の「肩鎖関節脱臼」は、数あるスポーツ外傷の中でも力士にとって特に厄介な部類に入ります。なぜなら、相撲という競技の特性上、肩への負担は避けられないからです。
ここでは、過去の名力士たちの例を挙げながら、この怪我がどれほど深刻なものなのかを考察していきます。
過去の横綱・千代の富士や大関・琴欧洲も苦しんだ古傷
相撲ファンにとって「肩の脱臼」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、あの大横綱・千代の富士かもしれません。「ウルフ」の愛称で親しまれた昭和の大横綱も、幕下時代から肩の脱臼癖に悩まされていました。
千代の富士関の場合、脱臼を克服するために筋肉の鎧をまとうような壮絶な筋力トレーニングを行い、それをカバーしたことはあまりにも有名です。しかし、それは並大抵の努力で成し遂げられるものではありません。
また、より最近の例としては、元大関の琴欧洲(現・鳴戸親方)のケースが挙げられます。彼もまた、今回の大の里関と同じ「左肩鎖関節脱臼」に見舞われました。2013年の九州場所でこの怪我を負って休場し、結果として大関から関脇への転落を余儀なくされました。
そして翌2014年の春場所で同箇所を再発させ、それが決定打となって現役引退を決意されています。
このように、肩の脱臼は一度発症すると「再発のリスク」が非常に高く、最悪の場合は引退の引き金にもなり得る、極めて危険な怪我なのです。
大の里の相撲スタイル「左おっつけ」へのダメージ
大の里関の相撲スタイルを考えると、今回の怪我はさらに深刻さを増します。彼の最大の武器は、強烈な右差しと、相手の体勢を崩す「左おっつけ」からの重戦車のような前進です。この「左おっつけ」こそが、彼の相撲の生命線と言っても過言ではありません。
相手の差してくる腕を外から絞り上げ、相手の上体を起こし、自分の有利な体勢を作る。この動作には、肩関節の強靭な強さと柔軟性が不可欠です。
今回痛めたのが、まさにその「左肩」であるという事実は致命的です。肩鎖関節は、腕を押し出したり、脇を締めたりする動作で大きな負荷がかかる部位です。
もしこの関節が緩んでしまったり、痛みが慢性化したりすれば、彼はこれまでのような豪快な「おっつけ」を使えなくなるかもしれません。それはつまり、自分の勝ちパターンを一つ失うことを意味します。
14日目の琴櫻戦で見せたように、左が使えない大の里関は、片翼を失った鳥のように脆くなってしまう恐れがあるのです。
横綱昇進イヤーの輝きと直面する「初めての壁」
今年の大の里関は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いでした。年6場所中3場所で優勝を果たし、横綱昇進を決めただけでなく、自身初となる年間最多勝も確定させています。誰が見ても「大の里の時代」が到来したと感じさせる一年でした。
これだけの成績を残しているからこそ、ファンの間では「今はしっかり休んでほしい」「無理はしないで」という擁護の声が圧倒的です。しかし、順風満帆だったからこそ、今回の怪我は彼にとって「初めて直面する巨大な壁」になるでしょう。
これまでは若さと勢い、そして恵まれた体格で勝ち進んできましたが、これからは「怪我との付き合い方」や「スタイルの修正」を迫られる可能性があります。
怪我をきっかけに歯車が狂い、そのまま調子を落としてしまう力士も少なくありません。この試練をどう乗り越えるかが、彼が「名横綱」になれるかどうかの分水嶺になるかもしれません。
師匠・二所ノ関親方の経験と今後の調整方針
大の里関にとって幸運なのは、師匠である二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)がそばにいることでしょう。実は親方自身も、現役時代に怪我に泣かされ、その苦しみを知り尽くしている人物だからです。
師匠の「二の舞」を避けるための慎重な判断
二所ノ関親方の現役時代、2017年の春場所を覚えている方も多いでしょう。左大胸筋などを負傷しながらも強行出場し、奇跡の逆転優勝を飾りました。あの優勝は感動的な伝説として語り継がれていますが、一方で、その代償として怪我を悪化させ、その後の力士人生を大きく狂わせる原因ともなりました。
結果的に短命な横綱となってしまった悔しさは、誰よりも親方自身が痛感しているはずです。だからこそ、愛弟子である大の里関には「同じ轍(てつ)を踏ませたくない」という強い思いがあると考えられます。
今回の休場判断も、師匠と話し合った上での決断と報じられていますが、そこには親方の「将来ある弟子を守りたい」という親心が見え隠れします。目先の優勝や出場よりも、長く活躍できる力士になってほしい。そう願うからこそ、今回の治療に関しては、これ以上ないほど慎重に進められるはずです。
1ヶ月の安静加療の意味とリハビリの難しさ
診断書にある「1ヶ月の安静」は、あくまで日常生活に戻るまでの目安と考えた方が良いかもしれません。激しいぶつかり合いが日常である相撲において、万全の状態で復帰するにはさらに長い時間が必要になるでしょう。
肩鎖関節脱臼は、単に骨が元の位置に戻れば良いというものではありません。
関節を支える靭帯が損傷しているケースが多く、中途半端な状態で稽古を再開すれば、すぐにまた外れてしまいます。
まずは炎症を抑え、組織の修復を待つ。その上で、関節周りのインナーマッスルを強化し、脱臼しにくい体を作る地道なリハビリが待っています。
焦りは禁物です。もし無理をして早期復帰し、再び脱臼するようなことがあれば、琴欧洲関の例のように「癖」になり、引退へのカウントダウンが始まってしまいかねません。
大の里の復帰はいつになる?来場所出場の可能性
ファンとして最も気になるのは、「いつ大の里の相撲がまた見られるのか」という点でしょう。
現在の情報と怪我の性質から、今後のスケジュールを予測してみます。
冬巡業は全休の見通しで回復を最優先
報道によれば、場所後に行われる冬巡業は休場して回復に努める見通しとのことです。これは当然の判断と言えるでしょう。巡業は地方のファンと触れ合う大切な機会ですが、移動の負担も大きく、十分な治療環境が整わない場合もあります。
今は治療に専念できる環境に身を置き、じっくりと体を治すことが最優先です。
来年一月の初場所出場は極めて不透明
問題は、年明けの一月場所(初場所)に間に合うかどうかです。診断書の「1ヶ月の安静」をそのまま受け取れば、12月下旬頃までは本格的な稽古ができない計算になります。
初場所の初日は通常1月中旬です。
12月下旬から稽古を再開したとして、わずか2〜3週間で横綱として恥ずかしくない状態、そして怪我の恐怖心を払拭できる状態まで仕上げられるでしょうか。
常識的に考えれば、非常に厳しいスケジュールです。ぶっつけ本番で出場するリスクを冒すのか、それとも初場所も全休して春場所での万全の復帰を目指すのか。ここでも、師匠である二所ノ関親方の判断が鍵を握ることになるでしょう。
親方の現役時代の経験からすれば、「万全でないなら休む勇気」を選択する可能性も十分にあります。
現在の状況を整理すると、以下の表のようなシナリオが考えられます。
| シナリオ | 可能性 | 予想される展開 |
| 初場所出場 | △(低い) | 驚異的な回復を見せた場合。ただし再発リスク高。 |
| 初場所全休 | 〇(高い) | 治療とリハビリに専念。春場所での復帰を目指す。 |
| 途中休場 | △ | 出場はするが、状態を見て判断。最も避けたいケース。 |
逆境を乗り越え、さらなる強さを手に入れられるか
怪我は力士にとって試練ですが、同時に成長のきっかけにもなり得ます。千代の富士関が脱臼を克服して大横綱になったように、大の里関もこの怪我と向き合うことで、肉体的にも精神的にも一回り大きくなるチャンスがあります。
例えば、左腕に頼りすぎない相撲を覚えたり、怪我をしない体の使い方を研究したりすることで、相撲の幅が広がるかもしれません。
リハビリ期間中に下半身を徹底的に鍛え直せば、土台の安定感が増し、将来的にはさらに手がつけられない強さを発揮することも期待できます。今は暗いトンネルの中にいるように感じるかもしれませんが、彼には若さと才能、そして素晴らしい指導者がついています。
この苦境をバネにして、必ずや強い横綱として土俵に戻ってきてくれると信じたいところです。
大の里の休場と今後まとめ
今回の九州場所での大の里関の休場は、相撲界にとって大きな衝撃でした。しかし、ここで無理をして選手生命を縮めるよりも、勇気ある撤退を選んだことは、長い目で見れば賢明な判断だったと言えるでしょう。
最後に、今回の記事のポイントをまとめます。
- 休場の直接原因は13日目の安青錦戦での負傷: 翌日の琴櫻戦で左腕が使えず敗北し、限界を悟っての決断でした。
- 診断名は「左肩鎖関節脱臼」: 全治1ヶ月の安静が必要で、力士にとっては再発リスクの高い厄介な怪我です。
- 生命線「左おっつけ」への影響が懸念される: 自身の得意な型に関わる部位の負傷であり、今後の相撲スタイルの修正が必要になる可能性もあります。
- 過去の事例から見る危険性: 千代の富士は筋トレで克服しましたが、琴欧洲はこの怪我が引退の遠因となりました。
- 師匠・二所ノ関親方の経験: 親方自身が無理をしてキャリアを縮めた経験があるため、弟子には慎重な調整をさせる方針と見られます。
- 冬巡業は全休の見通し: まずは治療に専念し、12月中は安静を保つことが予想されます。
- 初場所(一月場所)の出場は不透明: 稽古再開の時期を考えると、万全の状態での出場は厳しく、全休の可能性も十分にあります。
- 復帰への鍵はリハビリと焦らない心: 再発を防ぐための体作りと、恐怖心を克服するメンタルケアが重要になります。
- 年間最多勝の実力は本物: 今年の圧倒的な成績は揺るぎない事実。この試練を乗り越えれば、さらに強い横綱になれるポテンシャルがあります。
- ファンができること: 早期復帰を急かすのではなく、「万全になって戻ってきてほしい」と温かく見守ることが、今の彼にとって一番の応援になるでしょう。
大の里関が再び土俵で躍動し、あの力強い相撲を見せてくれる日を、今は静かに待ちたいと思います。


